中央道・談合坂スマートICの開通案件02 ~遺産分割協議?相続分譲渡?~
談合坂エピソード②
4.大昔の遺産分割協議書を利用する
「うちはすでに大昔に遺産分割協議したけど。」そのように仰るかたが出てきて、2家族ほど大昔に作成した遺産分割協議書等を利用したところもあった。何十年も前に作成した遺産分割協議書であっても、要件を満たしていれば登記手続きには十分使用できる。
しかし、以下の2点を満たしている遺産分割協議書が非常に少なく、改めて書証の保存方法や後世に通用する記載方法が難しいものだと感じた。
- 原本であること。ページに欠損もなく、印鑑証明書も人数分原本が添付されていること。
- 今回の対象不動産が明記されていなくても「その他遺産は、●●が相続する。」などと最終的・包括的に相続する者が記載されていること。
実際は、たくさんのご家族から遺産分割協議書がある旨のご連絡をいただき、私も何軒かお宅に伺って蔵などを捜索し、貴重な書類の数々を拝見したが、使える遺産分割協議書類は、たった2家族分だけだった。そのことを教訓に、私の事務所では、必ず漏れなく「本協議書に記載のない遺産が発見された場合には、●●が相続する。」と記載し、遺産分割協議書と印鑑証明書を合綴した冊子を作成してお客様にお渡しすることにしている。
5.遺産分割協議?相続分の譲渡?
進め方の方針について市の担当者と話し合った際、各家系で代表者を決めてもらい、代表者に対して他の相続人たちは相続分の譲渡をし、まとめていったら登記も楽だし市も買い取りを進めやすいのではないか、と、一旦は、なった。
しかし、ここで問題発生。民法では相続分の譲渡について、さらっと規定しているだけだが、登記申請の際に簡単にいかない場合もある。ここが登記実務のややこしいところで、不動産登記法には物権変動の過程を忠実に反映しなければならないという大原則があるため、相続順位の違う相続人同士で相続分の譲渡をしてもダイレクトに名義を変更することはできない場合が多い。
例えば、Aが祖父、BとCが子、Bの子がD、Cの子がEとし、A→B→Cの順で死亡したとする。
A名義の土地相続について、EがいとこのDに対して相続分の譲渡をしたとしても、不動産登記法に従うと、A→Dという権利移転登記はできない。中間省略登記は認めていないからだ。この場合、A→持分2分の1(B)D、2分の1(C)Eという登記をした上で、E→Dという所有権移転登記をしなければならない。
ただし、DとEで遺産分割協議書をしたということであれば、遺産分割協議書の書き方にもよるが、登記簿上はA→Dという登記が可能である。
そうであれば相続分の譲渡などせず、普通に遺産分割協議書を締結したほうが良いことになる。
今回のように数次相続がたくさん発生している場合、あとで登記できないとなって再度書類を書いていただくのはまずいだろうとなり、確実に登記できる方法でひとつひとつの家系をまとめていこう、という方針になった。
(ちなみに、弁護士さんにも入ってもらい、進め方について検討したが、弁護士さんの意見だと「相続人が全部わかったところで全員に対して訴訟を提起して一気にまとめたらどうか」というものだった。しかし、裁判所といえども万能というわけではなく、これまでも数々の同類の事件でこの手法を採ってきたがうまくいかないことも多かったということで、今回はできる限りは地道に進め、遺産分割協議書を作成していき、最後判子がもらえないかただけに訴訟という手段を使おうということになったのだった。)(続く)