相続の手続きを間違えないために!遺産分割協議と相続放棄の違いを理解しよう
相続が発生すると、相続人は財産をどのように分けるか話し合うことになります。
この際、「遺産分割協議」や「相続放棄」といった手続きが関係してきますが、両者は全く異なるものです。
正しい手段を選ばないと、予期せぬトラブルが起こる可能性もあるため、各手続きを正しく理解することが重要です。本記事では、「遺産分割協議と相続放棄の違い」について詳しく解説し、正しい選び方を紹介します。
1.遺産分割協議と相続放棄を間違えると大変!どちらを選ぶべきか理解しよう
相続の手続きにはいくつかの方法がありますが、特に『遺産分割協議』と『相続放棄』は混同されやすいものです。
どちらを選択するかによって結果が大きく異なるため、まずはそれぞれの基本的な意味と違いを理解しましょう。
1-2.遺産分割協議とは?
遺産分割協議とは、相続人全員で話し合い、遺産をどのように分けるか決める手続きです。協議がまとまったら「遺産分割協議書」を作成し、各相続人が署名・押印することで合意が成立します。
遺産分割協議の根拠条文
- 民法第907条(遺産の分割の協議)
相続財産は、相続人間の協議によって分割することができる。
1-3.相続放棄とは?
相続放棄とは、相続そのものを「最初からなかったもの」とする手続きです。
相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったことになり、遺産分割協議にも参加できません。相続放棄をする場合は、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所で手続きを行う必要があります。
相続放棄の根拠条文
- 民法第938条(相続の放棄)
相続の放棄は、家庭裁判所においてすることを要する。 - 民法第939条(相続放棄の効果)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
なお、相続放棄をする前に相続財産を使ったり処分してしまうと、相続方法の1つである単純承認とみなされ、相続放棄は認められなくなるため要注意です。
詳しくは下記ページをご参照ください。
>>「相続放棄とは?申述の期限や相続人の範囲、必要書類と注意すべき単純承認も徹底解説」
2.選択を間違えると思わぬ問題が出てくる可能性あり
遺産分割協議によって他の相続人が相続する場合でも、相続放棄をした場合でも、「自分が相続をしない」という結果は同じです。
そのため、遺産分割協議と相続放棄を同じように考えてしまう方も多いようです。
しかし、その中身は大きく異なり、誤った選択をしてしまうと大問題に発展することも。具体的な事例を見てみましょう。
2-1.ずっと昔に相続放棄したけど…(遺産分割協議:Aさんのケース)
Aさんは、父が数年前に亡くなった際に、相続放棄をしたと思っていました。
そんなAさんのもとに、全く身に覚えのない自治体から、固定資産税の支払いに関する通知書が届きました。問い合わせてみると、その自治体に父名義の土地があり、名義変更がされないままになっているため、相続人であるAさんに通知書が送られたようです。
Aさんは、「相続放棄をしているから関係ない」と放置していましたが、実はAさんがおこなったのは相続放棄ではなく、単に遺産分割協議でAさんは相続しなかっただけでした。
この場合、Aさんは父の相続人として固定資産税の支払い義務が発生します。固定資産税の支払い義務を負わないためには、改めて父の相続人全員と遺産分割協議をおこなう必要があります。
2-2.母に相続させたいだけだったのに…(相続放棄:Bさんのケース)
Bさんは、兄との二人きょうだいで、母は健在、このたび父が亡くなりました。父の法定相続人は、Bさんと、母、兄となります。
Bさんきょうだいは、父名義の実家や預貯金等の財産をすべて母に相続して貰いたいと思い、兄とともに相続放棄をおこないました。無事に相続放棄の受理がされたので、その結果をもって相続手続きを始めたところ、「お母さんだけでなく、父の兄弟姉妹も相続人になりますよ」と指摘されました。
相続放棄をおこなうと、初めから相続人ではなかったことになるだけでなく、相続人の範囲にも影響を及ぼします。
本ケースのように、相続放棄によって子が初めから相続人ではなかった扱いになると、「母と子」だった相続人が、「母と父の兄弟姉妹」になってしまうのです。
3.遺産分割協議と相続放棄の選び方
前述の事例のように、遺産分割協議と相続放棄は似ているようで全く違う手続きです。安易に手続きをしてしまうと取り返しのつかないトラブルを生んでしまいますので、慎重な選択が必要です。
以下に簡単な選び方を用意しました。相続が発生した場合、参考にしてみるとよいでしょう。ただし、あくまで参考例となりますので、まずは専門家へのご相談をおすすめします。
3-1.借金が多い→相続放棄
相続財産よりも借金のほうが多い場合は、相続放棄をすることで債務を引き継がずに済みます。
単純承認とならないように、被相続人の所持品や資産などの処分はしないようにしましょう。
3-2.借金や家族間でのトラブルが無い→遺産分割協議
基本的に、借金や家族間でのトラブルがない場合には、相続放棄をおこなう必要性は低いといえます。
誰がどの財産を相続するか、家族間でよく話し合って決めましょう。
3-3.借金やローンはあるけど自宅を相続したい→遺産分割協議
自宅の土地や建物が被相続人名義の場合、被相続人の借金やローンから逃れるために相続放棄をしてしまうと、自宅も相続をすることができなくなってしまうので要注意です。
自宅の土地や建物について、事前に名義人を確認しておくとよいでしょう。
3-4.とにかく相続問題に関わりたくない→相続放棄
相続放棄をすることで、相続に関する一切の権利や義務を放棄できます。
4.遺産分割協議と相続放棄、それぞれの手続きの流れ
遺産分割協議と相続放棄では手続きも全く違います。両者の具体的な手続きの流れは以下のとおりです。
4-1.遺産分割協議の手続き
- 相続人を確定する(戸籍謄本等を取得)
- 相続財産を調査する(預貯金、不動産、借金等の確認)
- 相続人全員で話し合い、分割内容を決定
- 遺産分割協議書を作成し、署名・捺印(実印)
- 不動産の名義変更や預貯金の解約手続きを行う
遺産分割協議書には実印での捺印が必要です。
そのため、実際の手続きの際にはそれぞれの印鑑証明書が求められますので、協議書を作る段階で取得しておくようにしましょう。
4-2.相続放棄の手続き
- 相続財産を調査する(預貯金、不動産、借金等の確認)
- 相続放棄の意思決定(熟慮期間である3か月以内に判断)
- 家庭裁判所へ申立て
- 審査を受ける
- 相続放棄申述受理通知書の受領
相続放棄は、熟慮期間と呼ばれる3か月の期間の間に相続をするのか、しないのかを決めなければいけません。しかし、財産調査に時間がかかってしまうような場合、熟慮期間の伸長ができる可能性があります。
相続放棄について、詳しくは下記ページをご参照ください。
>>「相続放棄とは?申述の期限や相続人の範囲、必要書類と注意すべき単純承認も徹底解説」
5.迷ったら司法書士に相談を!
遺産分割協議と相続放棄どちらにするか、選択には慎重な判断が求められます。
また、遺産分割協議には相続人全員の同意が必要であったり、相続放棄には期限内におこなう必要があったりなど、各手続きには法律上の要件が定められています。
専門家のサポートで適切な手続きをスムーズに進めることができますので、相続が発生した際は相続に強い司法書士へ相談されることをおすすめします。
相続放棄ができる期間が短いため、相続発生後すぐに動き出すことが重要です。
経験豊富な司法書士が親身になって対応いたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。
初回相談は無料です。メールや電話、お問い合わせフォームからご連絡くださいませ。